関東鉄道常総線乗車記

ファスト風土」という言葉が世間を賑わせてから約10年。

10年の間にファスト風土に対する意見や批判、また時代の変化もあり、「再考 ファスト風土化する日本」という本が出版された。

 

個人的には、ファスト風土は見えない貧困の象徴だと考えている。大手チェーンは安くて高品質なサービスを提供してくれるが、もはや多くの日本人は大手チェーンの安いサービスなしで生きれないほど貧しくなっている。だが表面上は高品質なサービスを享受しているから、貧困には見えないのだ。

(付け加えると、安くて質のいいサービスはサービス残業含む長時間勤務で成り立ってきた。働き方改革でそれらが規制された結果、日本企業のレベルは著しく低下している)

そのほか日本固有の文化や社会のつながりが失われているのは私も同感だし、このままではまずいと思いつつも、正直著者の偏見や思い込みがかなり多いと感じる。

 

ともかく、こういう本を読むと、やはり地方都市の実態をこの目で確かめたくなるものだ。

どうせ家にいてもやることがないし、今まで乗ったことのない「関東鉄道常総線」に乗って北関東へ足を運ぶことにした。

ダラダラ書いてるうちに5000文字を超えてしまったので、流し読み程度に読んで頂ければ幸いである。

 

まずは東武アーバンパークライン東武野田線)で流山おおたかの森駅に向かう。

今日の天気は曇り時々晴れ。曇っていたとはいえ最高気温は30度近い。

ただでさえ暑いというのに、自宅から最寄り駅に向かう途中、スマホを部屋に忘れてしまい、予定の電車に乗り遅れた上、無駄に汗をかいてしまった。

適当に待合室で時間を潰し、柏方面へ向かう列車に乗る。

車内は乗客もまばらで空調も効いて快適だった。電車に乗るのが珍しいのか、おじいちゃんに連れられて車内ではしゃぐ女の子がほほえましい。

そんなこんなで流山おおたかの森に到着。乗り換え客が多いこともあるだろうが、とにかく賑わっている。それも大宮や南越谷と異なり、健全な賑わい方だ(失礼)

のんびりつくばエクスプレスの乗り場に向かうも、ホーム到着寸前に守谷方面の列車が出発。またしても待ちぼうけを喰らう。

それにしても暑い。考えてみれば私ももう39歳のメタボ予備軍だし、暑さに対する耐性が落ちているのかもしれない。

 

列車を待っている最中、遠くでロックミュージックを演奏しているのが聞こえてきた。

今日はイベントでもやってるのかな、全く聞いたことがない曲だな…などと考えているうちに向かい側のホームに秋葉原行き列車が到着した。

昼の15時ごろだというのに、随分乗客が多い。見渡してみればこの流山おおたかの森周辺もマンションだらけで発展している。つくばエクスプレス第三セクターの中でも異例の成功を収めているが、元々何もなかったところに街と鉄道が出来て、たった十数年前でバンバン人が行き交うようになるとは、にわかに信じがたい。

 

そんなことを考えているうちに守谷行き普通列車が入線してきた。



元々車内はさほど混雑していなかったが、この駅で一気に乗客が降りてガラガラとなった。

私を迎え入れたのは運悪く弱冷房車。弱冷房って言ってもそんな蒸し暑いわけじゃないだろうと思って乗り込んだら、普通に蒸し暑かった。しかし今から車両を移るのも面倒だし、守谷駅まではすぐなので我慢することにした。

 

そして列車は守谷駅を出発。次の停車駅は柏の葉キャンパスだ。

このつくばエクスプレスは速さにも定評があるが、普通列車だからと言って甘く見てはいけない。惰性運転してないんじゃないかというくらい、一駅移動するにも全速力なのだ。そこそこ距離があるはずなのに、驚くほどの速さで柏の葉キャンパス駅に到着する。

この柏の葉キャンパスつくばエクスプレス開通で激変した街だ。元々東大のキャンパスがあるくらいで、国道16号沿いの微妙なエリアだったのに、今や超高層マンションがバンバン建ち、まるで別世界である。国道16号は何度も通っているが、16号沿線には柏の葉T-SITEという蔦屋書店の施設も存在する。

 

次の停車駅は柏たなか駅。ここは利根川近くの台地上に真新しい住宅地が形成されている。当然つくばエクスプレス開業に合わせて開発されたはずだ。東急も真っ青の開発ぶりである。

 

柏たなか駅を出ると、利根川沿いの低湿地の上を通る。眼下には抜け道になっている農道と、そこに連なる車列が見える。ここも私がよく通る道だ。

そして利根川をわたるのだが、曇りだというのに川沿いの緑がまぶしい。進行方向左手には常磐自動車道が見える。TXの最高速度は130km/hだから、よほど飛ばさない限りこちらには追い付けないだろう。

 

そして再び住宅地に入ると、終点の守谷駅に到着。ここは元々関東鉄道常総線が通っていたが、やはりつくばエクスプレスで激変した街である。ここから関東鉄道常総線に乗り換え、下館へと向かう。

改札を出て正面にはフードコート、左に進むと関東鉄道の改札がある。券売機ではアラブ系と思しき外国人集団が悪戦苦闘していた。時刻を見ると、あと10分ほどで下館行きが出るらしい。



ただ、このまま電車に乗ってしまうのも面白くない。せっかくなので駅周辺を散策してみよう…と思ったが、中々の暑さにやられてフードコートに逃げ込んでしまう。

さてフードコートに入ったはいいが、別に食べたいものがない。結局すぐフードコートを出て、関東鉄道の駅の方に戻る。

駅改札口の脇にはコンビニとお土産店、コーヒーショップがあった。何となくお土産店に入ってみると、土産物に混じってぬれせんべい等の銚子電鉄グッズがあった。

それから岩井銘菓のせんべいもある。岩井とは坂東市のことかなと思い裏面を覗いてみたら、やはりそうだった。せっかくなのでこれと銚子電鉄ぬれせんべいを買った。

そうこうしているうちに例の下館行き列車が出てしまう。時刻を見ると、約20分後に水海道行きが出て、その10分ほど後に下館行きが出るらしい。ほかにすることもないので、次の列車まで時間があるが改札の中に入ってしまおう。

関東鉄道つくばエクスプレス、どちらの駅も2面4線構造だが、駅の印象は大分異なる。当たり前だが関東鉄道の方が若干古臭い。ポスターも地元色が漂う。

待合室で缶コーヒーを飲んでいたら、ホームへ向かうエスカレーターからブザーが鳴った。利用客がエスカレーターを逆走しそうになったらしい。右のエスカレーターがホーム方面、左がホームからコンコース方面で進入禁止になっているのだが、間違えてこっちに侵入してしまったらしい。面白いことに、その数分後別の客がまたブザーを鳴らしていた。それを笑っていた私もいざ乗る時に間違えそうになった。なぜかは分からないが、人間工学的な問題があるのだろう。

 

やがて水海道行き列車の発車時刻が近づいたので、ホームに降りてみる。既に単行の気動車が待機していた。だが予想に反して席が埋まっており、乗るのをためらってしまう。水海道まで気楽に移動し、そこで下館行きを待ってればいいやという目論見が外れ、結局累計30分近く待って下館行きに乗ることになった。

10分後に来た下館行きも1両編成で若干立ち席が出る程度の乗客数だった。乗った印象としては、乗客が多く複線であることを除けば、地方でよく見るローカル線と特に違いはない。車両は年数を感じさせるし、よく揺れる。最高速度は80キロ程度。つくばエクスプレスとの落差が激しい。

ただ水海道駅で乗客の多くが下車し、路線も単線となる。水海道以南は複線にするほどの需要があるものの、聞けば地磁気観測所に配慮するため非電化にしているという。同じ理由でJR常磐線水戸線はつくば周辺では交流電化になっている。昔は直流から交流に切り替える際車内の照明が消灯して夜中は真っ暗になったそうだが、最新型車両はそんなことはないらしい。複線非電化といえば北海道が思い浮かぶが、非電化=需要がないというわけではないのだ。

そんな複線区間も終わりを告げ、車窓も田園風景が目立つようになり、水海道からは一気にローカル色が強まる。進行方向右手には雄大筑波山が見える。この路線、基本的には鬼怒川沿いの集落を結ぶ形で走るため、沿線に民家はそこそこあるのだが、ここは本格的な車社会であり、人口の割に鉄道利用者は少ない。

そんな田園風景も、下妻までは低地に広がる田んぼが多かったが、そこから先は台地と畑が増えてくる。数年前洪水被害が大きかったのも下妻から水海道にかけてのエリアだった。日本最大と言われる関東平野もずっと平坦なわけではない。

駅のホームは4両編成くらいまで確保されているらしく、ホームの端っこには雑草が目立つ。植え込みっぽいところにまで雑草が生い茂ってるのを見ると、あまり管理が行き届いてるようには見えなかった。地域によっては地元住民がボランティアで花を植えてる所もあるし、何かいい取り組みが出来ればいいんだけどね。

乗客は下館に近づくにつれて減少し、守谷出発時でほぼ満席だった車内は、最終的に乗客6~7人程度になった。それでも30分~1時間に1本の列車にこれだけ乗っているなら、決して需要は少なくないのだろう。

 

そして列車は無事下館駅に到着。

向かい側のホームにはローカル線を思わせるオレンジ色の車両が発車を控えていた。

 

改札口は簡易型PASMOで、そのままJR水戸線の乗り換え口に通じている。下館駅はJR水戸線関東鉄道常総線真岡鉄道の3路線が乗り入れるターミナルだが、その割にはこじんまりとしていて、どことなくローカル色が漂う。

ここから埼玉の自宅へ戻るべく小山方面の列車を調べると、出発は30分後とのこと。

改札から出ても出なくても料金は一緒なので、せっかくだし駅前を散策することにした。

改札を出ると、左側にNewdaysがあったが、営業時間は何と平日朝のみとのこと。完全に通勤通学客向けなのだろうが、こんなピンポイントな営業時間は初めて見た。

 

そして駅舎から出ると、目の前に巨大なショッピングセンター…に入居する筑西市役所が。駅前広場は地元のおっちゃんが何かを飲みながら歓談している。

 

駅前には青木繫の作品「海の幸」のレプリカがあった。調べてみると一時期筑西市に滞在していたことがあったという。ベンチに腰掛けてみたが、足元を何匹もアリが歩き回っていたので早々に立ち去った。

筑西市役所の前に来ると、どう見てもショッピングモールのフロア案内にしか見えない看板に「筑西市役所 ◌◌課」の文字が並ぶ。

立派な建物だ。大きな立体駐車場もあるし、昔は賑わったのだろう。ちなみに幼少期真岡鉄道のSLに乗りに来た際、下館駅には来たはずなのだが、賑わっていた頃の様子がどうも思い出せない。

駅前の歩道橋を上がってみると広場が一望できる。それにしても学生が多い。駅前にいるのは地元の学生と高齢者ばかりで、私と同年代の30~40代が全く見当たらない。例の「再考 ファスト風土化する日本」にも載っていたが、これこそファスト風土化した地方都市の実態だ。車が使える人は郊外に出てしまい、駅周辺が高校生&高齢者のための空間と化している。中心市街地は空洞化が進み、駅前徒歩圏で買い物が出来なくなる。結果車がないと生活が成り立たなくなり、大手チェーン店で占められたロードサイド店舗に頼るしかない。こうして一層郊外化・ファスト風土化が進むのだ。

ともかく高校生をかきわけて改札を通り、列車を待つ。列車を待っている間にも次々高校生がやってくる。いくら夕方とはいえ今日は土曜日。模擬試験でもあったのだろうか。見た感じホームで列車を待つ客の8~9割近くが高校生らしい。

やがて駅の両側から5両編成の列車がやってきた。

最後尾の車両に乗り込もうとしたら、ドアが開かない。水戸線のドアは半自動式でボタンを押さないと開かないのだ。

前の方の車両は学生でごった返しているが、最後尾は静寂そのもの。少し煙の臭いがしたが、今の時期野焼きはしてないよな…などと考えているうちに出発する。

気動車の走行感覚になれていたせいか、車内はとにかく快適。冷房もしっかり効いてるし、速いわりに振動も少ない。平凡な田園風景を眺めているうちに住宅地に入り、そのまま小山駅に着いた。小山は元々栃木市足利市よりも人口の少ない街だったが、今や県内二位の人口を擁し県南地域の拠点となっている。

私を乗せた列車は、ワンマン列車の水戸行きになった。水戸線もワンマン化されたのか…

帰りはJR宇都宮線の各駅停車熱海行きで南下していく。私は15両編成の最後尾に乗車。車内はガラガラで、インスタ用か分からないが、女子高生二人組が堂々と写真を撮るという自由ぶり。私もクロスシートに腰かけ、ようやくゆっくりできた。

途中貨物列車を先に行かせるため5分ほど停車した。貨物の優先度なんて低いものだと思ったが、よくよく考えたら貨物みたいな長大編成の列車を退避させる場所なんてないし、場合によっては貨物の方が優先されることもあるのだ。

そんな訳で今回は関東鉄道常総線で旅をしてきたわけだが、久々に気動車に乗れてうれしい反面色々と地方の実態を見せつけられてしまった。その翌日また久々に川越に出かけたのだが、こちらはファスト風土と好対照だったのでまた別の記事として書いてみたい。